2012年3月31日土曜日

Alvarius B.『BAROQUE PRIMITIVA』

Alvarius B. a.k.a. Alan Bishop
Alan Bishop
Alan Bishopは、90年代「Lo-Fi」「Scum」といった文脈の中でCAROLINER RAINBOWやBUTTHOLE SURFERSなどとともに紹介され注目を集めたバンドの一つ「SUN CITY GIRLS」のメンバーとして有名な人物です。


BOREDOMS
リアルタイムではないのですが、僕はBOREDOMS山塚アイがその周辺のバンドのレビューを雑誌に書いてた記事を見て興味を持った覚えがあります。

当時、僕はかなりBOREDOMSに影響を受けていたタイプの人間だったので、そのあたりの音源を買い漁り、特にSUN CITY GIRLSはその奇っ怪なスタイルと独自の音楽姿勢でその頃からお気に入りのバンドでした。








SUN CITY GIRLS
SUN CITY GIRLSは、1982年アメリカ合衆国アリゾナ州のフェニックスでベーシストのAlan Bishop、ギタリストのRichard Bishop(.a.k.a. Sir Richard Bishop)のレバノン系移民の兄弟によって結成されます。



当初は違うドラマーがいたようですが、すぐにメンバーの中でも一番の変わり者で知られるCharles Gocherが加入し以後の不動のラインナップが完成します。


(因みにバンド名に使われている「SUN CITY」とは近所にあった高齢引退者コミュニティーからとったそうで、日本でも老人ホームの名前などで使われています。)

結成当時はパンク・ロックのバンドとして活動していたそうですが、初期音源を聞く限りでも既にその片鱗すら見えない世界観を作り出しています。



SUN CITY GIRLS
SUN CITY GIRLSはダダ、カットアップ、サウンド・コラージュ、サーフ・ロック、ハードコア・パンク、映画音楽、ラジオ、世界各地の民族音楽、ノイズ、フリー・インプロヴィゼーション、サイケデリック・ロック…等を取り入れた独自の音楽スタイルを確立しており、
彼らがその後のAnimal CollectiveDeerhoofなどの後続のバンドに与えた影響ははかり知れません。


(ツアーでフェニックスに来たBLACK FLAGと共演した際には、即興ノイズを演奏してパンクス達にゴミを投げつけられたりしたそうですが(笑)。)

どの作品も一つとして同じものはなく毎回新鮮な印象を与えられるのですが、自身のレーベル「Abduction」を中心に様々なレーベルから確認されているだけでも約80作にも上る膨大な作品を発表しているためその全貌を掴むことはかなり難しいです。


2000年代にはメンバーはシアトルに移住し、バンド活動や、それと並行したソロ活動(今回紹介するAlvarius B.もその中の一つです)、など様々なプロジェクトを行なっていきますが、
2007年2月19日にドラマーのCharles Gocherが闘病生活の末に癌で亡くなり、残念ながら今後二度とSUN CITY GIRLSとして活動することはないそうです。
(皮肉にもグループ最後のスタジオ作品『FUNERAL MARIACHI』は物悲しい「葬式楽団」と名付けられたアルバムでした…。)








Alan Bishopといばもう一つ、レーベル「SUBLIME FREQUENCIES」での活動も個人的には欠かすことができません。


(レーベルはこのブログのタイトルでもあるFINDERS KEEPERSのロンドン暴動チャリティーアルバム『MAKE DO AND MEND Vol.7』の選曲も担当しています。
→『MAKE DO AND MEND Vol.5』の紹介記事はこちら)

SUBLIME FREQUENCIESは非欧米圏のサイケデリックな音楽を「発見」「紹介」していくレーベルなのですが、時間をかけて誰も見向きもしないような大量のヴィンテージ音源を集めその中から選出したコンピレーション・アルバムを発表したり、偶然出会った現地の音楽家をフィールド・レコーディングした作品を発表したり…、とその切り口は既存のどのワールド・ミュージック・レーベルとも違い独特で奇妙です。



初期のSUBLIME FREQUENCIESを特徴付けているのは何といっても「ラジオ・シリーズ」と呼ばれる諸々の作品ではないでしょうか。
これはSUBLIME FREQUENCIESのクルーがモロッコやインドネシア、タイなどの各国に旅に出た際に現地で流れているラジオ番組やCMを録音し、これに現地で録音した様々なフィールド・レーコーディングなどの素材を足してカットアップ/コラージュすることで作品化したものです。

1つの作品を作るのに100時間以上もラジオを聴き続けるらしく、海外行った際は他の多数のプロジェクトを進行させつつ空いた時間はほとんどホテルに籠もってラジオ三昧とのことです。
Falafel Eastern Western by transmissionsfm
Freedom Fighters by transmissionsfm
(↑『Radio Palestine: Sounds of the Eastern Mediterranean』より)


Alan Bishop & Mark Gergis
これらの作品はAlan BishopやMark GergisらのSUBLIME FREQUENCIESクルーの高い編集能力のおかげで、巷に溢れるただ繋ぎ合わせただけのコラージュ作品とは一線を画す素晴らしい作品になっています。

(ラジオ・シリーズの詳細なレビューなども掲載しているこちらのサイトの記事も是非ご一読を
▼「サウンドスケープとしてのラジオ"Sublime Frequencies"のCD」片手にラヂヲ♪)


Omar Souleyman
ここ近年のSUBLIME FREQUENCIESは「ラジオ・シリーズ」や怪しげなフィールド・レコーディングといった初期のリリース形態から少しずつシフトをし始めてきているようです。

例えば、ヨーロッパツアーやBjörkとの共演で話題となったシリアのOmar Souleyman」やTony Allenのツアーにも同行した西サハラのバンド「GROUP DOUEH」等の新作、

トルコ・サイケ・ロック界の重鎮「Erkin Koray本人選曲による60年代から70年代のレア音源を収録したベスト盤…
などなど所謂「正規」のリリースも増えてきています。

SUBLIME FREQUENCIESは以前紹介した『GLOCAL BEATS』という書籍や『Sweet Dreams issue #3』でも特集が組まれています。

特にSweet Dreams Pressが発行している『Sweet Dreams issue #3』では
「特集 世界を暴露しろ!:虚構と現実の間を泳ぐサブライム・フリークエンシーズ~シアトル発、珍奇な世界音楽レーベルがやろうとしていること」
と題してAlan Bishopのインタビューなど様々な記事が掲載されているので興味がある方は是非とも読んでみてください。
(今回SUBLIME FREQUENCIESやSUN CITY GIRLSの記事を書くにあたってこちらを大々的に参考にさせていただきました。)

SUBLIME FREQUENCIESの音源もまた追々紹介できたらなぁ、と思っています。











…でやっと本題のAlvarius B. a.k.a. Alan Bishopです。 

トラック・リストは
Alvarius B.『BAROQUE PRIMITIVA』
1. The Dinner Party
2. Mussolini's Exit
3. Humor Police
4. You Only Live Twice
5. Face to Face with a Couple Axes
6. Well Known Stranger
7. Naturally Absolute
8. Funny Thing Is
9. 3 Dead Girls
10. Like That Madri Girl
11. God Only Be Without You

2011年に発表されたSUN CITY GIRLSの事実上の解散後初の作品で、2006年から2010年の間に録音されたこちらがソロ6枚目になります。
当初アナログのみの超限定リリースでしたがそちらは即完売してしまい、SUN CITY GIRLSのレーベル「Abduction」より豪華ブック仕様のCDで再発されました。

ジャケットは全裸の女性が曼荼羅状に配置されているという、なかなか凄いことになっていますが32ページにも及ぶブックレットも負けず劣らずやたらエロティックでした。


それまでのソロ作を全て聴けているわけではないのですが他の作品群とは明らかに違った、意表をつくボサノバ調の「The Dinner Party」で作品は幕を開けます。

Ennio Morricone
以前よりAlan BishopはフェイバリットにFela KutiEnnio MorriconeSun RaBad Brainsなどをあげているのですが、イタリアの音楽家で映画音楽の巨匠として知られるEnnio Morriconeに対しての思い入れは特に強い様で、Ennio Morriconeの実験的な楽曲だけに焦点を当てた編集版『Crime and Dissonance』の監修者の一人に名前を連ねていたりします。
そんな訳でこちらのアルバムも実は1、2、5、7、8、10曲目(ほとんどですね…)が
「Maestro Padre Supremo」
(「父なる偉大な先生」みたいな意味合いでしょうか。Ennio Morriconeのことみたいです。)
のAlvarius B.流の再解釈曲になっています。
先程の「The Dinner Party」もEnnio Morriconeが音楽を手がけた映画『ある夕食のテーブル』(日本未公開/1968/伊)のテーマ曲「Metti Una Sera Cena」がオマージュ的に使われています。



映画音楽といえばもう一曲、John Barryが手掛けNancy Sinatraが歌った映画『007は二度死ぬ』の主題歌「You Only Live Twice」をサイケデリックにカバーしたこちらの曲も秀逸です。
Alvarius B. - You Only Live Twice

僕は今まで全く意識していなかったのですがこの曲は原曲自体も既に超名曲ですね。





収録は少ないのですがAlvarius B.のオリジナル楽曲も素晴らしく、
Alvarius B. - Well Known Stranger

ラストのThe Beach Boys「God Only Knows」のカバー、そこまでの白昼夢が覚めるように崩壊していく「God Only Be Without You」まであっという間に時間が過ぎてゆきます。
Alvarius B. - God Only Be Without You

全体的な世界観も作り完璧で、メランコリックな極上のアシッド・フォークに仕上がっていることから個人的にはESP-Disk'あたりの愛好家にも好まれる作品ではないかと思います。







JFA
そんなAlan Bishop、実は80年代にスケート・パンクを代表するグループで、メンバーは全員スケーターというハードコア・パンク・バンド「JFA (Jodie Foster's Army)」に在籍していたという意外な経歴を持っています。
(バンド名の「Jodie Foster's Army」とはレーガン大統領暗殺未遂事件の犯人John Hinckleyが女優のジョディ・フォスターのストーカーだったことに由来。)


SUN CITY GIRLSと同郷のアリゾナ州のフェニックスで活動していたJFAは1984年のアメリカ・ツアー直前にベースのメンバーが一時脱退、SUN CITY GIRLSがツアーの前座を務めることを条件にこのツアーでのライブにAlan Bishopが加入しました。結局Alan Bishopはその後3年間ほどJFAに在籍していたようです。
(映像を観ているとたまにSUN CITY GIRLSのメンバーがJFAのTシャツ着てたりします。恐らくAlan Bishopもスケーターだったんでしょうかね?)


JFAはツアー中サウンドチェックなんてそっちのけでツアー先の街のスケート・スポットのチェックに余念がなかったり、初期のギグでは他の客がポゴ・ダンスをする中彼らの仲間だけはHBストラットと呼ばれるブレイク・ダンスを決めていたり、当時はけっこうやんちゃな集団だったみたいです。
まあ人に歴史ありってことで。
















0 件のコメント:

コメントを投稿